「お役立ち情報(旧:保守サービス業務マガジン)」では、主に、メンテナンスや保守サービス業務をどう良くしていくのか、また将来の保守サービスのトレンドなどについて記事を随時投稿していく。
一口に保守サービスといっても業界によってさまざまあるので、なるべく実際の産業・業界や、機械そのものに焦点を置いて、保守サービスやメンテナンス業務の効率化ポイント、トレンドをリサーチし、このメディアで紹介していく。
私は、保守サービスに関連する管理システム導入や業務コンサルティングを生業とするが、機械の機構や構造について、すごく興味があるというわけではない。が、純粋な「機械」ではないが、「乗り物」は割と好きな方である。若い頃から、鉄道、飛行機、バスを駆使して日本国内や海外を動き回るのが好きだったので、「乗り物」に軸足を置いた保守サービスの現状、そして今後について、気ままに投稿していきたい。

2018年8月某日、出張でドイツ・ニーダーザクセン州のある町の会社を訪問した。3泊4日の弾丸ツアーで、町から町への移動で公共交通機関を利用したが、ほぼ全ての工程で遅延が発生した。

<往路>
8月N日 成田エクスプレス 線路内人立ち入りで遅延(約35分)
8月N日 大韓航空(仁川→フランクフルト) 一部のトイレの排水不良で遅れ(約20分)
8月N+1日 ドイツ鉄道ICE; Inter City Express(ケルン→ベルリン線) 原因不明(多分車両故障)で遅延(約20分)

<復路>
8月N+2日 ドイツ鉄道ICE(ベルリン→ケルン線) 車両故障で遅延(約40分)

特に往路の成田エクスプレスの遅延により、出発の25分前に空港到着、既に搭乗開始、チェックインカウンターはクローズの状態で、あわや乗り遅れるところだった。
なぜこれほど時間通りに運行されないのか。上記遅延4工程のうち3工程は、何等かの車両トラブルが原因である。ICEの遅延はドイツ語でのアナウンスだったので詳細がわからないが、明確に原因の判明しているトイレ排水不良(大韓航空)は、事前に判明、対処できないのか・・・?

前置きが長くなったが、この記事のタイトルである「ヨーロッパの鉄道メンテナンスと定時運行率」に関して。
私が今回の工程で経験したように、ドイツの高速鉄道・ICEが2日間で2回、大幅な遅延となった。ドイツの鉄道は、ICEだけでなく夜行、ローカル線、越境特急など、過去にかなり乗っているが、あまり遅れる印象がない。
しかし欧州委員会の2014年の統計では、ドイツの長距離列車の定時運行率は、78.3%にとどまる。 欧州23か国中、リトアニアとポルトガルのみがドイツを下回る結果だ。ちなみに1位はフィンランド(95.4%)、2位がイタリア(約90%)である。ただし、定時運行率は国毎に測定方法が異なる(※)ため、ドイツとフィンランドを同じ基準で測定したらどうか、については言及されていない。それにしても、78.3%という数字は、決して定時運行率が高いとは言えないのではないか。
ちなみに日本はどうかというと、同じ基準で定時運行率を測定した結果がないので、単純な比較はできないが、例えば2013年の東海道新幹線における定時プラスマイナス1分以内の定時運行率は95%と言われる。

サービス業務における目標指標

出展:欧州委員会レポート(2014)各国の定時運行率
※時刻表上の公表時刻に対する遅延の測定方法は国別に異なる。
 ドイツ:6分以上の遅延
 ポルトガル:5分以上
 その他各国:15分以上


定時運行を妨げる理由は、車両故障、時間に対する考え方(国民性)、外部要員(人立ち入りなど)などさまざまあるが、鉄道会社又は車両製造会社として取り組むことで、車両故障に起因して生じる遅延を削減できる可能性はある。

ドイツ国内最大手の重電メーカー・Siemens AGは、主戦場であるドイツ国内鉄道の定時運行率を向上するため、新たに納入する車両の一部にセンサーやコネクターを搭載し、IoTによるデータ収集を可能とした。新たに設置したSiemens’ Mobility Data Services Centerに30人のソフトウェア専門家を配置し、収集するデータから車両の状態を検知したり、データのパターンや異常値を分析し、交換が必要な部品がある場合、次回定期点検で交換するように計画することで、突然の車両故障と、故障からもたらされる列車遅延を防止する。

Financial Timesによれば、この仕組みはスペインRenfeに向けてSiemens AGが納入した高速鉄道(AVE)車両でも効果を発揮しており、定時運行率99.98%に到達した。この成果を顧客に還元すべく、AVEで30分以上の遅延が発生した場合、切符代を全額返金対象としている(2018年現在)。マドリード・バルセロナ間においては全額返金対象を15分以上の遅延にする可能性もあるという。ちなみに東海道新幹線はじめ日本の多くの有料特急列車は、2時間以上の遅延で全額返金となる。

Siemens AGは他にも、ドイツ鉄道傘下のDB Cargo(貨物)ともIoT機器の納入契約を締結し、ユーロスプリンター ES64F 152形とベクトロン170形, 191形を手始めに各搭載機器の状態を検知する仕組みを導入する(Railway Technology参考)。搭載したセンサー等から収集されるデータはSiemens’ Mobility Data Services Centerの専門家によって、データ解析モデルや適用方法の開発に利用される。

一連の取り組みによりドイツにおける定時運行率がどう推移したのか、別途追跡はしたい。
ただ、様々な路線や種別が複雑に入れ込む大都市の鉄道では、IoTを駆使したスマートメンテナンスへの移行、その成果として得られる定時運行率の向上につながっていくまでには、かなりの時間がかかるかもしれない。特に、長距離高速列車とローカル線が一部路線を共有する欧州では、日本のように、例えば新幹線(ほとんどが専用路線)だけスマートメンテナンス、という形は成り立たない。全ての車両、部品がIoT化され、データ収集に基づく高度な解析を経て、利用形に近づくと思われる。
もとより、鉄道車両のIoT化がヨーロッパに対して大きく進んでいるわけではない日本の鉄道は、かなり高い定時運行率を実現している。もしかすると、IoTによるスマートメンテナンス以外に定時運行の鍵があるのかもしれない。